研究生活10年目。研究に行き詰まる(Vol.2)

コロナでネガティブデータすら出ない

前回の記事で研究におけるポジティブデータとネガティブデータの違いをヨーグルトに合う具材に例えて書いた。

研究者は、新規性、かつインパクト(驚き)のあるポジティブデータを任期の内に出さなければいけないという、プレッシャーのある職業であり、やりがいももちろんあるが、新しいことに疲れてしまう、という側面もある。人間、たまにはルーティーンワークもしたいし、二日連続同じものを食べたくなる時もあるのだ。研究者というのは、常に食べたことのない料理に手を出さなければいけないような職業なのだ。

さて、研究者なのに、新しいこと嫌いな自分であるが、それでも時折新しいことにチャレンジしつつ、なんとか10年近く研究職を続けている。しかし、コロナの影響で現在、研究室に通えるのが週に3日か4日だけとなっており、なかなか研究がうまく進まない。研究者に必要なのはポジティブデータ(ヨーグルトに合う食材)でネガティブデータ(ヨーグルトに合わない食材)は基本的に必要ないのだが、コロナの影響でそのネガティブデータすら出ないという状況が続いている。

ネガティブデータは実験の失敗ではない!では実験の失敗とは?

研究に失敗はつきものだが、ネガティブデータが出るというのは、実は実験の失敗ではない。

「ヨーグルトに合う具材の研究」の例を引き続き使うが、ヨーグルトに合わない具材の発見というのは、ネガティブデータではあるが、「この具材がヨーグルトに合わない」ということは分かるのである。こういうネガティブデータは、論文のネタにはなりづらいが、研究室内でのデータとしては、記録され引き継がれ、後任者が同じ過ちを繰り返さないように済むようにしている。

では、実験の失敗とはどういうことか?これは、例えば「使おうとしていたヨーグルトが腐っていた」とか「実験日にヨーグルトが届いていない」とか、そういった類いのものが「実験の失敗」となる。せっかく試そうとした具材を取り寄せたのに、肝心のヨーグルトの方に問題があり、実験そのものができない、こういうのが実験の失敗と言える。この場合、いくら具材を用意しても、その具材がポジティブデータなのかネガティブデータなのかわからない。実験というのは基本的にネガティブデータの方が多く出るものなのだが、少なくともネガティブデータまでたどり着かないと、次の具材を試す段階に至らないのだ。

コロナで研究室にいける日が限られると、こういう「実験の失敗」が増えてきた。せっかく具材を取り寄せたのに、ヨーグルトの方が腐っていて、実験にならなかったり、逆にヨーグルトを新しく買っている間に、具材の方が傷んでしまったり。「ヨーグルトに合う具材の研究」の場合、結果はその日に分かるが、実験によっては、1日以上待たないといけなかったりする。そうすると、実験をしても、その失敗に気がつくのが翌週で、そこから失敗のリカバリーに入る、と言った感じで、なかなか進まないのだ。

自分の研究室の場合、現在のコロナの影響で、研究室に入れる人数が通常の50%と定められている。そこで研究室メンバーを2グループに分けて、水曜日から土曜日の4日間、研究室に通える週と、木曜日から土曜日までの3日間、研究室に通える週をもう一方のグループとローテションしている。わかりにくいが、もう一方のグループは、日曜日~火曜日(3日間)か日曜日~水曜日(4日間)でやっているということだ。

例えば、顕微鏡観察の場合(ヨーグルトの例え、いらなかったかもしれない)、土曜日にサンプルを調整しても、マウンティング液の性質上、一日待たないといけないので、観察できるのは次の日以降である。しかし、日曜日以降は別グループしか入れないため、その結果が分かるのは翌週の水曜日か木曜日になる。そして、もしその実験が失敗していた場合、翌週にようやくその失敗に気づき、そこからリカバリーをかけ始めるのだ。なかなか、実験が進まないのがおわかりいただけるだろう。つらい日々を送っている。

毎日通うことができれば、それで十分だ。失敗にすぐに気がつくことができる。午前、午後で2グループに分けるという案もあったようだが、トップが許さないようだ。

なんだかんだで、自分は実験が好きだ。実験が好きということは、新しいこともやっぱり好きなのかもしれない。

続く

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