NIHから続々日本人が去っていく

2020年はNIHに在籍する日本人にとっては別れの年だ。去る者は居ても来る者がほとんど居ない。

実際に自分の身の回りだけでも6人の日本人研究者がNIHを去った。ほとんどがビザ切れで、コロナ ウイルスの流行とは関係がないが、1人は確実にコロナウイルスの影響で日本への帰国が決まった。

その方には幼稚園に通う小さいお子さんがいた。しかし、コロナの影響で幼稚園も閉鎖され、アメリカという友達を作りづらい環境で、どれくらい家に籠もればいいのか、全く先が見えずに、とりあえず奥さんとお子さんが日本に帰った。しかし、その後アメリカ国内のコロナ の状況はひどく悪化し、奥さんとお子さんは、いろいろな意味で、アメリカに戻ってこれない状況になってしまった。旦那さんは家族を愛する人で、ご家族と一緒に過ごしたかった。そこでツテを辿り、日本の製薬会社に仕事を見つけて、NIHを去ることになった。7月の話である。

そのツテとは以前ブログにも書いた、合同会社CPPである。彼は今年ボストンで開催されたCPPのセミナーに参加し、そこで大手製薬会社から研究職をオファーされていたそうだ。その時は話を保留にしていたようだが、「まだあの話、生きていますか?」と尋ねたらOKをもらえたそうだ。この時代にしてはかなりいい話だと思う。

長期間海外留学している学生や社会人のための就職フォーラムというのがある。CPPもそうだが、それ以上に有名なのがボストンキャリアフォーラム(通称ボスキャリ)である。いろんな人の話を聞いていると、意外とこれらの就活フォーラムで仕事を見つけている人が多い。自分は第一志望はアカデミアポジションだが、いざとなったらここを頼ろうかと考えている。留学経験というのはもしかすると企業就職にも有利なのかもしれない。

今の状況で一度アメリカ国外に出てしまうと、今度はアメリカに戻ってくるのが非常に難しい。多くのビザの発行が止まっており、一度アメリカ国外に出てしまうと、新たなビザがいつ手に入るかわからない。

それもあり、現在NIHにいる外国人研究者はなるべくアメリカ国内にとどまるように言われている。自分は一応行き来できるビザを持っているが、日本に帰っても二週間隔離であり、こっちに戻ってからも二週間隔離で、一時帰国になんのメリットもないので、アメリカにとどまっている。次日本に帰るのは、もしかするとNIHを辞め本格的に帰国する時なのかもしれない。流石につらい。

自分は留学して3年以上になるが、同時期に来たほとんどの日本人は帰国してしまった。NIHに留学する人は2~3年で帰る人が一番多い。4年以上留学し続ける人は少数派である。「ポジションが見つかったから帰る」と言って帰国する人が自分の身の回りには多かった。「そのポジションを逃したら、次いつポジションが空くかわからない」とみんな言っていた。その理由はすごく理解できる。

しかし、ポジションの空白に合わせて帰国するというのは、研究を中途のまま帰国するということでもある。事実、そう言って帰った人はノーペーパーの場合も多かった。そして経験的に、途中でファーストオーサーが研究室を抜けた場合、余程その研究が研究室にとって有益な物で無い限り、手掛けた研究は残念ながら放置され宙ぶらりんのまま終わる。「いつ日本に帰国するか?」というのは留学している研究者にとってジレンマである。

しかし、それ以上の本当の理由があると自分は思っている。それは「純粋に日本に帰りたい」のである。海外生活は確かに新鮮で魅力も多い。しかし、2~3年もすればその新鮮さも薄れ、「言葉が通じない」、「孤独」、「移動が不便」などのストレスのみが残ってくる。自分もその気持ちがよくわかる。

自分はあと数年アメリカで戦うつもりだ。この超ストレスのかかる生活は戦いと言っていいだろう。アメリカ生活の新鮮さは薄れてきたが、可能なら自分で新鮮味を作り出していきたいと思う。

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