夢の叶った人生

自分は「夢の叶った人生」を歩んでいる、ということを、今後のために、書き記しておかなければならない。

自分は、小さい頃から「研究者になりたい」という夢があった。生き物が好きで、でもそれ以上に「なぜ?」ということを考えるのが好きだった。小学生の頃から、周りの友達から「お前は将来、学者になりそう」と言われ続け、実際にその通りになった。

親も普通のサラリーマンで、どうやれば研究者になれるかもわからずに、とりあえず、自分の学力で入れる、理系の学部に進んだ。入学当初は博士課程の存在すら知らなかった。

「研究者というのは、修士課程のあと、そのまま博士課程に進み、そこで自分の研究結果が学術誌に掲載されると、博士号(Ph.D)が取得でき、そこで晴れて研究者としての道がスタートする」そのことを知ったのは、学部4年の研究室配属が始まってからだった。

本当に、この世界のことを何も知らず、ただ漠然と「研究者になりたい」と思って、自分は大学に進学したのだった。

研究室配属が始まり、実際に自分で実験してみて、それは本当に楽しかった。研究そのものは、始めた頃から今まで、ずっと面白いままだ。この世の中には、まだまだわからないことがある、というよりはわからないことの方が圧倒的に多く、さらに何か発見したとしても、また新たにわからないことが増える。そんな、一生暇することのない世界なのである。

ただ、研究の世界で行われている、激しい人間同士の競争については全然知らなかった。大学には教授という存在があり、各研究室のトップに教授やPIと呼ばれる存在がいて、それらのポジションを獲得できるのは、博士号を取得した者のごくごく一部であるということ。教授だけでなく、その下の准教授や助教のポジションでさえ、結構競争率が高いということ。そして、それらのポジション争いのために、高度な政治的要素が背景にあり、そしてその政治的要素は時に、研究そのものにまで干渉しうるということ。

そんなことは全然知らなかった。研究者は、皆等しく研究者であると思っていた。そんなポジションの序列があるなんて、大学入学時には全く知らなかったのだった。

研究そのものは大好きだったが、そこで行われる人間模様が大嫌いだった。自分が配属された研究室は特に競争が激しく、学生やスタッフ同士の仲も良くなかった。みんな研究にのめり込み、研究の否定はその人の人格の否定になってしまい、みんなプライドを守るために、あの手この手で戦っていた。

夜遅くまで残ることができなければ「もっと働け」と言われ、頑張ったら頑張ったで、今度は先輩や同級生のポジションを脅かすことになり、不機嫌な顔をされる。「夜遅くまで黙って働け、だけど俺より結果を出すな」そんなダブルバインドのメッセージを発する人が当時は多く存在していた。

もともと平和主義で、みんなと仲良く友達になりたい自分だったが、同じ研究室で、同じ研究分野で働く限り、みんなが競争相手で、いくら自分が平和的な対人関係を築きたいと思っても、相手がそれを望んでいなければ不可能だ。日本の研究生活は、狭い鳥籠の中に閉じ込められている感じだった。そして、その狭い鳥籠の中で優位なポジションに立つ力は、必ずしも研究手腕とは一致しなかった。

でも、小さい頃からの習性である「相手の顔色や機嫌を窺って、相手の期待に応えるように行動する」という行動パターンが発動してしまい、そんな敵意に満ち溢れた空間でも頑張って友愛的であろうとし続けた。しかし、それも叶わず、研究室の難しい対人関係の中で疲弊しきってしまい、気づけばうつ病を患っていた。

アメリカに来てからは、ほとんどの時間をうつ病寛解に費やし、大好きだった研究もあまり好きでなくなっていた。新しい論文はほとんど読まず、うつ病やメンタルヘルス関連の本ばかりを読み漁る、留学生活であった。

でも、そんな中でも、学生時代の余力で論文を出すことができた。自分としても、本当によくやったと思う。

研究者になりたくて、大学に入ったけど、ポジション争いに勝って教授になりたいわけではなかった。ていうか、そんなシステムは高校生の頃は知らなかった。

その意味で、自分はしっかりと、博士号を取得して、ポスドクとして海外で研究活動を行なっている。「研究者になる」という夢は立派に叶えたわけである。アドラー流に言うと「生きるに十分値した」人生をおくっている。

こんなことを書いているのは、近い将来、日本に帰らなくてはならず、また過酷な人間模様に巻き込まれる可能性が大いにあるからだ。そうなれば、もしかすると研究者を辞めなければならないかもしれない。そうなった時のために「自分はとっくに夢を叶えたのだ。あとは長いか短いかだけの違いだ」と自分自身を納得させている。

そんな、研究大好きっ子、競争苦手っ子な自分だが、絶対にやめなければならない状況に追い込まれない限りは、この過酷な世界にしがみついてみようかとも思っている。自分の言うように、研究者になると言う夢が叶った、余生を生きている。気楽に、面の皮厚く、生きてみてもいいのだと思う。

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コメント

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