実録!これがPCRだ!!研究者が全手動PCRを解説

コロナウイルス(COVID-19, SARS-CoV-2)の世界的流行でPCRという技術が一気に有名になりました。10年以上研究者業界にいて、実際にPCRも10年以上やり続けている身としては、PCRという技術が有名になる事が多少嬉しくもありました。そこで、今日は実際に写真付きでPCRという実験がどういうものなのかを解説しようと思います。

意外と簡単?写真付き全手動PCRを解説

先に言っておきますが、これは実際にコロナの医療現場で行われている、全自動PCRや定量PCR(qPCR)ではありません。PCRには様々な種類があり、実験の目的によって適宜使い分けられます。筆者は10年以上この業界にいますが、コロナの検出のために使用されている、定量PCR(qPCR)は未だにやったことがありません。定量PCRって普通のPCRよりも一歩先を行く技術で、生命科学の研究分野でも全員がやる技術ではないのですよね。癌とか免疫とかあと発生の研究をやっている人がよく使う技術という印象があります。

ですが、これから紹介する普通のPCRも定量PCRと本質は同じなので、というか普通のPCRをちょっと改良したのが定量PCRなので、基本的な実験操作は同じになるかと思います。それでは早速、実験手順を見ていきましょう。

全手動PCRを写真付きで解説

PCRはまずPCRチューブと呼ばれるめちゃくちゃ小さいチューブに試薬を混ぜ合わせることから始まります。もし、コロナの患者サンプルをPCR反応にかける場合は、この混ぜ合わせた試薬に患者サンプルを加えます。試薬は全て液体です。

試薬をチューブに加えるのは、ピペットマン(PIPETMAN)と呼ばれる、試薬を測りとるための器具を使います。これはギルソン社が出している商標名であり、厳密にはギルソン社が出していないピペットマンはピペットマンではないのですが(笑)、日本では慣例的にこの手の形の器具は大体ピペットマンと呼ばれています。ラップのことを全部サランラップと言ったりするのと同じ現象ですね。アメリカではこの慣習はなく、普通にパイペット(Pipet)と呼ばれています。少しだけ発音に癖がありますね。

実際にこれを使って試薬をチューブに入れていきます。例として水とPCR試薬を入れています。

本来はこれ以外にもプライマーと呼ばれるものや患者サンプルを入れたりするのですが、今回は省略します。そしてこれをPCRマシンと呼ばれるものにセットします。PCRマシンが具体的に何をやっているのかというと、実はただ温度を上げ下げしているだけですPCR反応は試薬を混ぜ合わせて、温度を上げ下げすることで完了します。だから、PCRマシンのことをサーマルサイクラー(thermal cycler)と呼んだりもします。画素が粗くて申し訳ないですが、具体的には95度を15秒、55度を30秒、72度を30秒というサイクルを35回繰り返しています。温度や時間そして何サイクル行うかということは目的に応じて臨機応変に変えることができます。

さて、今回のPCR反応は大体小一時間程度で終わります。そして最後にDNAが実際に増幅されたかどうかを確かめなくてはなりません。

コロナの検出に使用されているPCRは定量PCRと言って、チューブをマシンにセットすると、温度の上げ下げと同時にDNAの増幅の確認も同時にやってくれます。なのでその場合はマシンにチューブをセットした時点で実験が終わりとなりますね。その分、定量PCRマシンは普通のPCRマシンに比べて、高額で一歩進んだテクノロジーなのです。

ただ今回の実験では定量PCRマシンを使う必要がないので、DNAの検出も筆者自身が行うことになります。具体的にはアガロースゲル電気泳動ということを行います。

まず、PCR反応が終わった反応物に印をつけるため、紫色の色素を混ぜ合わせます。この紫色の液体には紫色の色素以外にGelRadと呼ばれるDNAに吸着する物質が含まれています。これはDNAに吸着した場合、紫外線を当てると光るという特性のある試薬であり(専門家から見るとだいぶ雑な説明です笑)、これによりDNAの検出が可能になります。なのでDNAの量が多ければ多いほど光の量も多くなります。

溶かしたアガロースゲルをこの器具に流し込むことで、DNA泳動用のアガロースゲルが仕上がる。アガロースゲルは時間が経つと冷めて自然に固まる。

そして、流し終わったゲルを検出器に入れます。この検出器は紫外線をゲルに当てて、その発光を検出し写真として保存することができます。写真はただの例えで、実際の患者サンプルではありませんが(筆者の実験用に細胞のDNAから目的の遺伝子を増やしたもの)、もしコロナのPCRだった場合、白いものがあるレーンが陽性で、白い物が無いレーンが陰性となります。

いかがだったでしょうか?これがいわゆる一般的なPCR実験です。PCR実験の操作自体を行うためには特別な知識は必要なく、ピペットマンを使って試薬を混ぜ合わせることができれば誰でもできるようになります。実際に筆者の所属していた研究室では高卒の方が実験アシスタントとして長年PCRをやっていましたが、彼はPCRがどういうものかは分かっていませんでした。

実験というのは料理と似ています。例えば、牛乳にレモン汁を加えるとカッテージチーズができますが、どういう原理がわからなくても、その作業さえできればカッテージチーズを作ることができますよね?それと同じです。

PCRのキャパをあげるべきか否か

このコロナ禍において、PCRのキャパシティーを増やすか否かは専門家の間でも議論の分かれるところで、未だに答えは出ていないと思います。PCRをしまくって感染の抑制に成功したところもあるかもしれませんが、アメリカのようにPCRをしまくっているけど、なかなか感染が抑えられていないところもあります。どちらがいいかは自分にはわかりません。これはCOVID-19というのが、重症化した場合はひどいけど、一方で無症状で済んでしまう、いわゆる不顕性感染が多いからだと考えられます。しかし、今後コロナ以外の新規感染症が流行する可能性も大いにあるので、ある程度PCRのキャパを上げておくのは、そういう時のことを考えると悪いことではないのかもしれません。ただし、PCRは装置も試薬も高額なものなので、国のお財布事情と相談した上での決断になるかと思いますが。

PCRを行う人員に関してですが、確かにPCRの手順はそれほど難しいものではないのですが、一方で小さい器具を何十個何百個も扱う分、ミスが生じやすいというのもまた事実です。筆者も疲れている時など未だに間違えます。コロナのPCRは筆者がやっているPCRよりも、人の命が直にかかっている分より正確性が求められます。サンプルを入れ間違えたりして、陰性の人を陽性と言ったり陽性の人を陰性と言ったりすると元も子もありません。どうしようもない時はPCR人員を急ピッチで増やすことも可能ですが、やはり長年PCRをやっている人に任せた方が、ミスは少ないかなと思います。

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コメント

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