【読書感想文】ポージェス、ラヴィーン、ウォーカーによる複雑性PTSDに関する本の違い

人体シルエットと背骨から広がる淡い光 うつ病治療

少しずつであるが、相変わらず、複雑性PTSDやトラウマに関する勉強を少しずつ進めている。昨年、自分の主な症状が複雑性PTSDに該当するのではないかと思い、以下の複雑性PTSDに関する本を読んだ。

【読書感想文】「透明を満たす」を読んで

【読書感想文】「愛着障害と複雑性PTSD 生きづらさと心の傷をのりこえる」を読んで

また、昨年パニックになった後は新しく通い始めたカウンセリングでポリヴェーガル理論を学び、それが自分のこれまでの症状をよく説明することに気がついた。自分なりにポリヴェーガル理論を咀嚼した記事はこちらになる。

うつ病とは背側迷走神経のギアセカンドである

2015年から、自分はずーっと自分の病の正体を解き明かそうとしていた。うつ病の本を読み病理を学び、パーソナリティを学び自分を悩ました元教授やMちゃんの存在が自己愛性パーソナリティ障害や境界性パーソナリティ障害であることを突き止め、でもその問題を引き寄せた根本の原因が、家族関係にあることを理解したり。

今自分が苦しんでいる原因の俯瞰図みたいなのは、数年前から理解できていると思っている。それでも、苦しみはゼロにならない。それでも、この苦しみから脱却できることを信じて、本を読んだり、カウンセリングに通ったり、ランニングしたり、キックボクシングしている。何かに向かって、戦い続けている。

少し時間ができて、複雑性PTSDに関する難しめの本を3冊読んでみたので紹介したい。

ポリヴェーガル理論入門 心身に変革をおこす「安全」と「絆」 ステファン・W・ポージェス

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケア ピーター・A・ラヴィーン

複雑性PTSD 生き残ることから生き抜くことへ ピート・ウォーカー

読んだのはこの三冊である。ステファン・W・ポージェスはかの有名なポリヴェーガル理論の創始者である。最近、ポリヴェーガル理論の科学的根拠に関しては疑義が上がっているのだが、それでも、実際にトラウマやPTSDで苦しめられているような私のような立場からすると、身体的症状を説明することにおいて、これほど説得力がある理論も他にないこともまた事実である。科学的に正しいか正しくないかはさておき、患者に身体症状の納得感を与えるという心理教育的な部分で、ポリヴェーガル理論はピカイチであると感じる。

ポリヴェーガル理論入門 心身に変革をおこす「安全」と「絆」では、ポージェス博士がインタビューアーとの会話形式で、ポリヴェーガル理論の説明や根拠の提示を平易な口調で行なってくれている。

自分がこの本を手に取った意図としては、ポージェス博士がどういう意図でポリヴェーガル理論を提唱したのか、その真意に触れたかったからだ。そして、この本を読むと、大体の背景は伺える。すなわち、PTSD患者の身体症状をまず観察して、その症状に適合するような説明を自律神経の視点から行なっているということである。

この本の特徴として、同じ内容が何度も繰り返し語られる部分があった。助長に感じられる人もいるかもしれないが、メッセージを強調するという意味ではいい作戦なのかもしれない。

自分にとって、この本特有の重要なメッセージは二つだった。それは

  1. 恐怖対象に対して、逃げたり反撃したりできず、シャットダウン・解離を選択した自分を決して責めないでください。シャットダウン・解離したのは、あなたの英雄的な選択であり、もし反撃していたら、あなたは殺されていたかもしれない。
  2. それでも、人間を含む哺乳類はシャットダウン・解離状態、つまり背側迷走神経が強く働いている状態から、元に戻ることが苦手であり、それ故、対処できない恐怖をシャットダウン・解離で乗り切った人がトラウマやPTSDに何年間も苦しめられることになってしまう。

ということである。1のメッセージで、今自分が苦しみながらも生きているのが、背側迷走神経の力によってシャットダウンしたからという、自分の過去を肯定してくれ、2のメッセージで、それでもこの何年も続く苦しみの原因が、人間がシャットダウン、つまり背側迷走神経が強く働いたことからの脱却が苦手であるから、というシンプルなメッセージで説明がなされる。

ピーター・A・ラヴィーン博士の本でも、トラウマやPTSDが身体の視点から語られる。ポージェス博士とラヴィーン博士は同じ時代に研究した、旧知の中であり、共同研究者でもあり、この本の中でもポージェス博士やポリヴェーガル理論について触れられている。二人に共通しているのが、トップダウンでなくボトムアップ、つまり「脳→身体」ではなく「身体→脳」方向へのアプローチに重きをおいている点である。

これら二つをもう少し詳しく説明すると、

トップダウン「脳→身体」アプローチは、認知行動療法に代表されるような「考え方・ものの捉え方の改善」に取り組むようなアプローチであったり、トラウマや複雑性PTSDのメカニズムについて学習する心理教育であったり、過去のトラウマ体験をカウンセリングで語ったり、文章化したりするような、いわば頭を使うアプローチである。まず、頭で学習し、状況を整理することで、行動の変化に結びつける。

一方のボトムアップ「身体→脳」アプローチは、身体に働きかけることで、抑うつの改善につなげる方法で、有名どころでいうと瞑想などがそれに当たる。運動したり、食事を改善したり、音楽を聴いたり、歌ったり、そういうことで病を回復させていこうというのがボトムアップだ。

自律神経は背骨から身体全体に走っている神経であり、内臓機能を調整したりもする。トラウマや複雑性PTSDを脳だけでなく、身体が怯えている状態とみなし、ボトムアップでそれに対処する。実際、恐怖対象に対面すると心拍が上がったり、あるいはシャットダウンして心拍が下がったりする。

脳と身体は切っても切り離せない存在であり、精神疾患の治療にはトップダウンとボトムアップ両方向から治療に取り組むのがベターなのだが、自分の取り組みも含めて、世間一般ではトップダウンアプローチが言及されることが多いのに対し、ボトムアップの重要性を強く訴えているのが、この二人であると認識している。

ラヴィーン博士の重要なメッセージは一つ。それは、

身体に閉じ込められた、恐怖・怒りの解放である。

自分が昨年パニックになった際に「過去に抑圧した感情を感じ切ることによって、トラウマが回復していく」というツイートを引用したのだが、その大元となるアイディアはラヴィーン博士によって提唱されたのかもしれない。

自分は何年にも渡り、ネガティブな感情を体に封じ込め、学生時代の研究室が主な原因となり、複雑性PTSDを発症した。何回も繰り返し、トラウマ体験を他者に語ることも、有効な治療法の一つであるが、最近自分が始めた、キックボクシングなんかも、体に溜まった怒りや恐怖を発散するのに有効な方法なのではないかと感じている。

「一番効くのはトラウマ経験を何度も語る持続曝露です」精神科医が訴えるいじめ被害者優先のケアとは?

最後のピート・ウォーカー博士の本はトップダウン型のアプローチで本の内容としては、長期間の家庭内虐待によって引き起こされる、複雑性PTSDに焦点が当てられており、自身の家庭内虐待の経験に加えて、セラピストとして患者に接した経験がまとめられている。四つのFを使用して、トラウマのタイプを分類しているのがこの人ならではだと思った。

ただ、残念なのが、この3冊の本を読んでも、「これ一本でお嫁に行けちゃう」みたいな画期的で万能な治療法は提示されていない、それどころか、具体的に何をすればいいのかという部分に関しても、それほど詳しくというか、納得感のある言及はされていない。もちろん、所々で種々の治療法は紹介されているのだが…

どの本にも、治療には時間がかかり、3歩進んで2歩下がる、根気が必要なものだと述べられている。

神はいないし、ユートピアもない。それでも今生は生きるに値するし、全てのトラウマサバイバーは英雄的に安全を希求し続けるべきなんだろう。

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