アメリカプチ失恋記-2

アメリカ生活

前回の続き

アメリカプチ失恋記-1

気がつけばシェルビーのことばかり考えるようになっていた。典型的な恋である。一方で、当時すでに自分はコロナ禍の慢性化されたストレスと迫り来る任期の恐怖が、自分のうつ病・複雑性PTSDに響き、体調は芳しくなく、明け方の希死念慮心臓の違和感えずき以前の研究室のルミネーション、そういう症状が加速していった。数年間帰国できない孤独から、しょっちゅう家族の夢を見るようになり、実家で目を覚ます夢を見ることがめちゃくちゃ増えた。

ただいま

帰国するのが怖くてしょうがない、けど帰国したくてしょうがない、そんな状態だった自分はシェルビーに踏み込むことはできなかった。それに、シェルビーに踏み込むには、自分はあまりに失恋を経験しすぎていた。今まで何度「脈ありかな」と思い、突撃して、肩透かしを喰らったことか。仮に体調が万全であっても、シェルビーと付き合える未来はあまり見えなかった。

もう一つは、自分はここのラボでちゃんと仕事を終わらせたかった。自分が関係を迫り、シェルビーが拒否し、自分とシェルビーの関係が崩れると、もはや同じプロジェクト内で働くことが難しくなる(学生時代に同様の失敗を経験ずみ)。出せる論文も出せなくなるかもしれない。そういうリスクは犯すことができなかった。

彼女とよく喋り、時折、焼き菓子をもらっていた関係が続いていた、そんないつも通りの週明けの話。いつものようにシェルビーからのHow was your weekend?から会話が始まり、自分がしたことを答え、いつものようにHow about you?と聞き返した。

すると、いつもと違う、感じの返答が返ってきた。自分はうまく聞き取れず、もう一度聞き返した。すると…

「パートナーの両親と初めてレストランで食事して、緊張した。彼らはポーランド人で英語が通じづらいから、今、一生懸命ポーランド語を勉強しているの」

という返答が返ってきた。

「あ、彼氏いたんだ」と聞き返すこともなく、淡々と「そうなんだ、それは緊張するね、ポーランド語って難しいって聞くよね」と彼女に同調していたが、動揺がどれくらい隠せていたかはわからない。

短く儚い恋だった。

その1〜2週間後、シェルビーからラボメンバーに「Happy hourにロックボトムに行こう!」と言うお知らせがあった。通常、仕事終わりにラボで集合し、徒歩でベセスダまで行くのだが、その日シェルビーは「私は用事があるから先に行ってるね」と言い、シェルビー以外のメンバーは準備ができた順に集まってベセスダへ向かった。自分は実験が押したので、少し遅れて会場へ向かった。時はコロナ禍で、ベセスダの道路が歩行者天国となり、ロックボトムでビールや軽食を注文し、屋外でHappy hourをすることが多かった。

会場に着くと、ラボメンバー数人とシェルビーが、見知らぬ男性を交えてビール片手に談笑していた。他のラボメンバーに「あの男誰?」と尋ねたのだが、彼も「実は自分もわからないんだ笑」と言っていた。だが、九分九厘、シェルビーの新しいパートナーだった。アメリカではこういう職場の飲み会でも家族やパートナーを呼び、みんなに紹介することが多かった。

よくわからないままことは進行したが、ハッピーアワーは楽しいもので、それでも問題なく、みんな楽しんでいた。ある程度時間が経ったところで、シェルビーが彼を自分の前に連れてきてくれて紹介してくれた。シェルビーは”He is Max”とだけ言い、彼の名前がマックスであるということだけがわかった。

マックスは高身長の金髪イケメンで、シェルビーとお似合いだった。マックスは「彼女はよくあなたのことを話してくれる」と自分に伝えてくれた。自分は何ともいえない感情になりながらも、でも気持ち的に整理はできていたので、マックスとも笑顔で会話していた。シェルビーとマックスと3人でNBAとかプロスポーツの話をしていたと思う。

しばらくして「私たちはこれで」とシェルビーとマックスは席を離れた。彼らが席を離れるや否や、残されたラボメンバーは「あいつ誰やねん!」とシェルビーとマックスの話を大声で話し始めた。自分のようにただ”He is Max”とだけ伝えられたメンバーもいたようだが、何人かにはBoy firendだと伝えていたことがわかった。わかってはいたが、マックスこそが数週間前、シェルビーが話していたパートナーだった。そこから数時間、彼らの話題で盛り上がり、23時近くになりようやく解散した。

帰り道「”He is Max”って何やねん笑。普通、関係性言うやろ笑」とおかしくなってきた。かまいたちのコントの「シンプルな山内」を思い出していた。おしゃべり好きだが、シャイなシェルビーらしいパートナー紹介だなと思った。

その後、シェルビーはデスクにマックスとの写真をたくさん貼り始めて、Happy Hourに参加していなかった、ボスやシニアスタッフ含めて、彼女にパートナーができたことを知るのであった。彼女の話ぶりから、随分前から知り合いだったようだが、事実関係を考慮すると、みんなにオープンにできるような正式な関係になったのは、つい最近のことだったのかと思う。

でも、おかげで、シェルビーとの関係は良好に保たれ、ビジネスパートナーとしての関係を問題なく継続できた。関係性がオープンになることで、週末の出来事なんかもより聞きやすくなった。

「なんだかんだで、留学の思い出になったよ。残りの期間、研究頑張るか!」

そう思った。

続く

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