自分の抜毛癖について、その癖を獲得した経緯と変遷に関して幼少期から振り返っている。
この話は小学5年生の頃に自分の身に起きた事件で、カウンセラーさんに書面で伝えたことがある以外では、両親にも友達にも相談できなかった、自分の恥の感情と密接に結びついた出来事である。
小学3年生頃に癖になったまつ毛の抜毛癖は、どうにか小学生のうちに自分でやめることができたと記憶している。だが、小学5年生の頃に始まった毛髪の抜毛癖は40歳に近づく現在も形を変えて続いている。
小学高学年に入って、友達の多くが、周囲の友達の陰口を言うようになった。自立心の芽生え、競争心の芽生え、自我の芽生えとして、当たり前の発達なのであるが、平和的で自我の発達が遅かった自分はそういう風潮についていくことができなかった。
当時流行していた陰口は二つだった。一つは「ほじパクをしている」と言うものだった。これは「鼻くそをほじって食べる」ことであり、うっかり「ほじパク」をしてしまうと「あいつほじパクしとったで」みたいな感じで、陰口やちょっとしたいじめの対象になった。自分にはほじパクをする癖は幸いなかったが、家で鼻をほじることはいくらでもあったため「この陰口を言っている人たちは家で鼻をほじったことがないのかな?」とか「そんなことで、仲間はずれにされるって、罪と罰のバランスが釣り合ってなくないか?」と大いに疑問に感じていたのだが、もちろんそんなことは言えず、傍観し、諜報員たちに鼻をほじっているシーンを目撃されないように細心の注意を払っていた。
もう一つは「エロい」と言うものだった。これは女子たちの間で男子へ向けて囁かれていた陰口であったが、カースト上位の男子へ向けられた言葉ではなかった。どちらかというと「ムッツリスケベ」とか「きもい」とか「不審者」とかそう言う得体の知れない感を伴う言葉として、ちょっと暗めだったり、カーストの高くない男子へ用いられていた。
「ほじパク」の方は鼻をほじらなければいいだけなので、それを避けることは難しくなかったが、「エロい」の方は一体何をさしてそう言われているのか、具体例が思い浮かびづらく、何を気をつければいいかもわからなかった。それでも女子と喋る時は細心の注意を払っていた記憶がある。
余談だが、自分は中学に入るまでセックスというものの存在をちゃんと把握していなかった。両親がそう言うものを自分の目に触れさせないようにしたり、その手の会話を徹底的に避けていたと言うのもあるかも知れないが、それ以上に小学生の頃の一番大事な性教育の日、セックスに関する直接的なビデオ教材を見せられる日に、風邪をひいてしまい休んでしまったのだ。そう言うことも相まって、自分の性に関することは同級生よりだいぶ遅れをとっていた。
だが、事件は起こってしまった。小学5年生の夏休み中の学校での水泳教室の時に、不意に「ジャーン」と言う声が聞こえたので、反射的にそちらを振り返ってしまったのだが、それは女子更衣室の方向で、ちょうど更衣室の扉が開く瞬間で、同時に、中で女子の一人が水着に着替え終わった瞬間であり、その彼女と目が合ってしまったのだ。もちろん、すぐに目を逸らしたのだが「やってしまった。終わった。エロい奴認定され、仲間はずれにされる」と直感した。その彼女はカースト上位の目立つタイプの女子だった。
もちろん、そんなことは瑣末なことで、その出来事一つで仲間はずれになるとも限らない(小学生の頃はみんな繊細で、ちょっとした事件で、その後の学生生活が決まってしまうと言うのはちょくちょくあることなのだが)。実際にそれ以降も自分は仲間はずれにされたり、いじめられたり、一切しなかった。でも周囲が怖くなって、一気に性格が暗くなった。自分からあまり話さなくなった。笑顔が減った。常に不安に苛まれた。
この頃から自分の頭髪の抜毛が始まった。だが、自分は同じ箇所から髪の毛を毛根から抜き、ハゲのスポットを作るということはしなかった。というのも、妹が既に抜毛癖を持っており、彼女は可哀想なことに、頭頂部にスポットを作ってしまっていた(妹も苦手な習い事を無理やりさせられていたり、ストレスの多い幼少期だった。理想先行型の母は無茶してでも自分の思う形に子供を押し込んでしまう傾向にあり、そのストレスは子供たち自身で消化しなければならなかった)。自分は彼女の失敗例を見ていたから「それだけはしないようにしよう」としていた。
そんな自分がとった抜毛の方法は「髪の毛をちぎる」というものだった。毛根から抜かなければ、ハゲのスポットもできないし、抜毛の快感も得られるし、一石二鳥だった。また「枝毛であれば抜いて良い」という謎ルールを自分で作り、毛髪の中から指で枝毛をスキャンニングし、それを抜いていた。
そんな癖が小学5年生から開始された。
「エロい」というレッテルを貼られたと思い込み、小学校を卒業するまで暗いままだったが、その不安や恐怖心も中学に入ってから消えた。というのも、中学生にもなるとみんな性に全開になり、男子は平気で下ネタを女子に振り、女子もそれを受け入れていた。何なら、クラスのトップカーストほどそういう傾向にあり小学生時分の「エロい」認定をされるようなことをする人ほど人気があった。
そんな様子を見て「詐欺じゃねえか。悩み苦しんだ2年間はなんだったんだ。」と思った。

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