ルカスと巻きタバコとフィラデルフィア

アメリカは公共の場での禁煙は進んでいるが、煙草屋そのものは日本より頻繁に目撃する。自分が住んでいる近辺でも”tabacco near me”なんて調べると、いわゆるシガーバー的な所がたくさんヒットする。

自分は20歳ごろから喫煙者だ。チェーンスモーカーではなく、喫煙と禁煙を数ヶ月単位で繰り返している。20代前半はつらいことが今とは比べ物にならないぐらい、たくさんあった。つらいことがきっかけで吸い始めた。そして今でも何か、やってられなくなった時にタバコを解禁して、吸いすぎて体力的につらくなってきたら、また数ヶ月の禁煙モードに入る。

日本にいた頃はマルボロゴールドを吸っていたのだが、こちらにそれに該当するタバコがなく、なおかつ市販のマルボロが日本と比べて不味い。機会があったら空港の免税店でマルボロゴールドを1カートン購入して、それを半年間ぐらいで消費するのだが、それも生憎切らしてしまった。

だから現在はタバコ屋で買った手巻きタバコを吸っている。味はこちらの方がうまく、なおかつ度数も好みのものを選ぶ事ができる。今回買ったのはアメリカンスピリット。強さはkinda strongと店員さんが言っていた。下から二番目だが十分強かった。

作ったことのない人のために、下に手巻きタバコの作り方を乗せておく。実際に手で巻くこともできるが、最近はめんどくさくなり、下のような装置を購入した。エプロンというらしい。これにも多少コツが必要だが、慣れれば圧倒的に楽である。これで手巻きタバコを作る事ができる。

自分に手巻きタバコを教えてくれたのは、アメリカに来た当初に出会ったスペイン人の知り合いだ。名前はルカス。彼はNIHに2ヶ月間の短期留学に来ていて、たまたま席が自分の真後ろだったのだ。当初、自分も来たばかりで、まだNIHに知り合いがおらず、彼とは挨拶がてら、慣れない英語で話しているうちになぜか仲良くなった。小学生みたいだ。

自分も彼もNIHでそれほどやる事がなく、共に帰宅時刻が5時ごろで、メトロまで一緒に歩いて帰っていた。彼はNIHから出るや否や駅の前で巻きタバコを作り、一服していた。NIH内は禁煙なので、NIH外に出てからでないとタバコを吸う事ができない。最初、NIH内の”Tabacco free campus”の看板を見つけた時「え、タバコ吸って良いの?」と思ったが、これはややこしいことに禁煙の意味である。

それまで、巻きタバコの存在を知らなかったので、彼が巻いているタバコが珍しくかっこよく見えた。彼は「こっちの方が安いから」と言い、巻きタバコを吸っていた。

自分はNIHに来たばかりで、流石にNIHの真前でタバコを吸う勇気がなく、彼が吸い終わるまで待っていたが、一度だけ、彼と一緒にDupont circleで開催されたハイヒールレースたるものを見に行った時に、「一本吸わせてくれない?」と頼んでみた。彼は快く承諾してくれた。喫煙者は大概こういう時に一本くれる。

彼からもらったタバコは、それまでも赤マルなども吸った事があったのだが、それとは比べ物にならないくらい強いタバコだった。吸った瞬間、頭から血の気がひいた。「これ強いんだよ」と彼は笑っていた。

彼とはたった2ヶ月の付き合いだったが、結構楽しかった。

一度、彼に誘われ、一緒にフィラデルフィアに日帰りで旅行した。まだうつ病がつらい時期で、朝早くに起きるのが地獄のような頃だったが、なんとか気を振り絞って朝起きる事ができた。結局、ギリギリだったが、なんとかUnion stationまで時間内にたどり着く事ができた。12月の霙の降る寒い日で、長靴を履こうか普通の靴で行こうか、すごく迷った覚えがある。どっちで行ったのかは覚えていない。

この時期に手巻きタバコを吸うと、そんなアメリカに来たばかりのちょっとした出来事を思い出す。結局、彼がスペインに戻った後は没交渉になってしまったが、この思い出は死ぬまで自分の頭に留まり続けると思う。

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