旅行に行って、ボスから祝福された話

アメリカ生活

アメリカにいた頃の話。時はコロナ禍であった。

コロナ禍に突入するまで、バケーションは年末年始への日本への一時帰国に消費していた。年末年始がハイシーズンだとはわかっていても、自分はどうしても、年末年始を家族や祖父母と、祖父母の実家で過ごしたかった。毎年恒例で、無口な一族なため、特に面白いイベントでもないのだが、どうしても年末年始は寂しくなり、クリスマスが終わった後の少し取りやすくなったチケットを取り、日本に向かっていた。毎年、3週間近く、年末年始にかけて休みをもらっていた。

それ以外は、尋ね人のために、夏休みに一週間ほど休みをもらっていた。両親や友人が日本から訪れてきてくれ、コロナ禍に突入するまで、毎年1週間は彼らと一緒に旅行したりしていた。

コロナ禍に入り、日本にも帰れなくなり、アメリカに缶詰状態になった。2021年にワクチン接種が始まったが、2020年までは旅行にもほとんど行けず(陸路では許される範囲で、何度か友人と行ったが、基本的に1泊2日だった)、人と集まることもあまり推奨されず(かといって他にすることもなく、許される範囲でしばしば集まっていたが。独身同士で夜な夜な集まり、吐くまで酒を飲みながら、トランプしたり、ゲームしたり、語り合い、大学生みたいな日々を過ごしていた。あまり大学生活を謳歌できなかった自分にとって、非常に新鮮なことでもあった。一つの青春でもあった)、いつ日本の家族がコロナに感染するか不安で、なんなら自分にもその可能性があり、強い不安の多い日々を過ごしていた。

ワクチン接種が広まり、その年は日本に帰れるかもしれないと期待していたのだが、隔離が撤廃されることがなく、帰れなかった。少し心が折れてしまっていた…

それまで年間4週間は休みをもらっていたのだが、2年近く、長期の休みをもらっていない状態が続き、実験もうまくいかない時期が続き、心が荒んできたので、私はアメリカの大自然へと、一週間旅行することにした。そこは自分が中学生の頃から行ってみたかった場所であり、憧れの地であった。

旅行から帰ってきて、すぐに自分のラボミーティングの発表があった。ラボメンバーの一人が、旅行の写真を発表の時に見せてほしいと行ってきたので、少し恥ずかしかったが、3枚ほど、国立公園の大自然の写真を発表した。

「ここに行くことが、中学の頃かの夢の一つだった」というと、ボスが満面の笑みで、ガッツポーズと共に祝福してくれた。他のラボメンバーもみんな同様に祝福してくれた。自分は、にわかにはその光景が信じられなかった。

日本にいた頃は、休みを取ることがボスから喜ばれず、休日の話などは決してボスにできなかった。「遊んでる暇があったら研究しろ!」と言われるのが関の山だったから。ボスのそのような態度に呼応し、ラボメンバーも「遊ぶことは悪」みたいなモードになり、他人が休むことにいい顔をしない人が多かった。旅行に行ったとしても、必ずお土産を買ってくるまでがセットで「ご迷惑おかけしました」と申し訳そうにしながら、みんな研究室に帰ってきていた。

それと真逆のことが、NIHの大御所が束ねるビッグラボで起きたことが、不可思議であった。でも、そのことがこれ以上ないほどありがたかった。

思うに、自分には、自分のための、自分のしたい行動をして、それに関して称賛されたり、祝されたりするという経験がほとんどなかった。それは幼少期も含めて。

もちろん、周囲がどう言おうとも、自分のやりたいことをする力、というのは非常に大切だし、人生に必要不可欠だと言ってもいい。けど、やっぱり、周囲にある程度、賛同してもらう方が、気持ちよく実行に移せるし協力もしてもらえるし、気持ちが乗ってくる分、行動も促進される。

少し話は違うが、同じコロナ禍での話、ラボミーティングはZoomで行っており、自宅からの参加者も多かった。その日は小さいお子さんがいるママさんの発表の日だった。彼女が発表を続けていると、2~3歳くらいの男の子のtoddlerが癇癪を起こして泣き始めた。途中、中断しながら、彼女はなだめていたが、癇癪が断続的におさまらず、彼女は彼の癇癪を収めるためにしばらく席を離した。

その間5分以上経過しただろうか。信じられなかったのだが、誰一人文句を言うことなく、途中雑談しながら、笑顔で、長い間、彼女を待ち続けたのだ。もちろん、ボスを含めて。「あのくらいの年の子はしょうがないよ」と話しながら。

その後、どうなったのか、いまいち覚えてはいない。結局、癇癪がおさまらず、お開きにしたのか、癇癪がおさまって再開したのか、あるいは癇癪がおさまらずも断続的に発表を完遂させたのか。一つ覚えているのは、彼女のお子さんが癇癪を起こす中、誰一人文句を言わず、嫌な顔すらひとつせず、笑顔で彼女を待ち続けたということだ。

平和的で、他者に寛大で、友愛的な仲間達によって構成される幸せな空間。

私にとってのユートピアがそこにはあった。改めて振り返っても幸せな留学生活であった。

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