過去が過去になるとは…

私的なこと

数ヶ月前に朝の通勤電車に乗っていた時のこと。

歳の頃20代半ばだろうか…青年がえらくうなだれて、目を瞑りながらしんどそうに幅を利かせて横並びのシートに座っていた。何となく厄介そうな感じだからか、彼の隣は空いており、自分は座りたかったので、彼の隣に座った。

彼は何回か目を覚ましたりまた寝たりしていたのだが、急に地べたに吐瀉し始めた。

その光景は衝撃的で、ほとんど未消化のうどんだけが綺麗に(全く綺麗ではないが)、床にばら撒かれてしまい、彼は取り乱すわけでも、申し訳なさそうにするわけでもなく、不機嫌そうにまた目を瞑って寝たふりを決め込んでいた。

向かいの席の人も、周囲の人も、めっちゃ不機嫌そうにその光景を見ては、目を逸らしていた。みなりとその惨状から、ただ明け方まで、限界まで酔っ払って、飲み食いして電車に乗ったのは明らかであり、誰も彼を気遣ったりはしていなかった。

自分も今すぐ隣を離れたかったが、ショックな出来事を前にしたからか、あるいは彼に一縷の気遣いがあったからか定かではないが、その場から動くことができなかった。だが、次の停車駅で一旦降りようと思った。

隣の車両に乗っても良かったのだが、何となく気持ちを切り替えたかったので、見送って、次の電車に乗ることにした。停車駅に着くと、隣のうどんを戻した彼も下車し、何事もなかったかのように改札に向かった。信じられなかった。吐瀉されたうどんが飛び散った車両の扉が閉じ、出発し、「あの車両、一体目的地までどうなってしまうのだろう」と若干心配しながら、電車を見送った。

かなり衝撃的な出来事で、帰ってすぐに親にも話したし、そこからしばらくの間、空いている横並びの席を見るたびにその光景が思い出された。ただそれが原因で、席に座れないとか、電車に乗れないみたいな出来事は発生せず、ただ嫌な思い出として、電車に乗るたびにそのことが思い出された。

あれから数ヶ月が経ち、最近はそのことを思い出すこともほとんどなくなった。出来事はトラウマ化せず、過去がちゃんと過去になった。

この出来事と対比し、時折、過去が過去になるにはどういう条件が必要なのだろうと考える。アメリカにいる間、自分は現地の生活を謳歌しつつも、ほとんど常に学生時代の研究室の教授や先輩といった過去の人物が頭の中に居続けた。過去が過去にならず、現在進行形で行われていることのように、教授や先輩の言動が思い浮かぶ。

親元に帰り、いろいろ状況が変化し、ようやく、学生時代の記憶も過去になり、毎時間のように思い浮かぶということがなくなった。

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