アメリカプチ失恋記-1

アメリカ生活

アメリカ留学中の切なく、淡い失恋の思い出を一つ。

留学生活も残すところ2年ほどになった頃、自分は長年付き合いのあったMちゃんという女性にフラれてしまった。11年9ヶ月にも及ぶ、苦しく切ない不思議な大恋愛だった。

Mちゃんと別れ、もちろん非常に悲しかったのだが、もうこれ以上Mちゃんを助けてあげる必要もなくなり、彼女にとっての救世主になるという役割から降りることができ、ほっとしている側面もあった。だが、10年以上の付き合いで、最終的にはMちゃんとの結婚が人生プランにも組み込まれていたので、人生計画が大きく変わり「これからどうやって生きていこう」と体に力が入らない、手持ち無沙汰な日々を過ごしていた。

ちょうどその頃、ラボメンバーも大幅に離脱し、ラボも少し寂しい雰囲気が漂っていた。新しいポスドクとしてシェルビーがうちのラボにやってきたのは、Mちゃんにフラれて2ヶ月後の、2月の話だった。

シェルビーは金髪慧眼の美しいアメリカ人女性であった。シェルビーには、ボスから自分が携わっているプロジェクトを暖簾分けする形でプロジェクトがアサインされ、デスクも隣で、自分と二人三脚で働くことになった。それまでもラボメンバーとは友好的に働いてきたのだが、みんな別のプロジェクトグループにおり、他のラボメンバーと同じプロジェクト内で働いたことがなく、自分はずっと一人でプロジェクトに取り組まなければならず、寂しい思いをしていた。

そんな矢先、急にシェルビーと一緒に働くことになった。シェルビーの美しさに緊張しながらも、実験手法やバックグラウンドを教えなくてはならず、未熟な英語で色々教えていた。

シェルビーはシャイな女性だったが、一緒に働くうちに自然と打ち解け、色々話すようになっていった。右手の薬指に指輪をしていたのだが、話す内容から、パートナーみたいな存在はいないのかなと感じていた。欧米人はパートナーがいる場合、割とすぐに自分から話し始めるのことが多かったのに対し、シェルビーはいつまでもそういう話をせずに、週末友達みんなと出かけたこととか、家で料理したことなどを話してくれた。

初めこそシャイだったが、シェルビーは一度打ち解けると、めっちゃ話しかけてくる、おしゃべり好きな人でもあった。シェルビーは典型的なHow was your weekend?タイプ人間で、週明けには必ずこの質問がとんできた。うつ病を抱えて、低覚醒状態で、週末は動けないことが多かった自分にとってこの質問は若干プレッシャーだったが、そう答えるわけにもいかず、シェルビーと知り合ってからは、話のタネを作るために、週末もなるべく活動するように努めた。

一度、シェルビーから平日にHow was your lastnight?と尋ねられたことがあった笑。週末は頑張って予定入れられるけど、平日は厳しいよ笑と思いながら、観念してJust watched Youtubeと照れながら答えた。How about you?と尋ねるとシェルビーは平日も友人たちとdinnerに行っていた。さすがアメリカ人と思った。

それまでのずっと一人でプロジェクトに取り組んでいた頃と違い、シェルビーと働くようになってから、圧倒的に英会話の頻度が増え、自分の英語力も向上していったように思う。一方でうつ病・複雑性PTSDに依然として苦しんでいた自分にとって、シェルビーのような美しい女性の存在は、嬉しい反面、プレッシャーでもあった。正直、ちょっと会話を避けたいなと思うこともあったが、いかんせんデスクが隣なので、避けるにも限界があり、週末に話のネタを作りながら、理解できない部分も多かったnative Englishをわかったふりをしながら、一緒に働いていた。

出会って2ヶ月くらいが経過してから、シェルビーは家で作った焼き菓子を、使い捨てのタッパーに入れ、自分にくれるようになった(余談だが、アメリカでは男女問わず簡単な焼き菓子作りができる人がめちゃくちゃ多かった)。「他のラボメンバーにもあげているのかな」とも思ったが、自分にだけだった。「まさか美人のアメリカ人から手作りのお菓子を貰える日が来るとは」と感慨に浸りながら、自分はありがたくマフィンやらクッキーやらをいただいた。正確には覚えていないが、二週間に一度くらいは何かしらもらっていた気がする。どれも優しい味がして美味しかった。自分もお返しにMaruichiで日本のお菓子を買ってプレゼントしたりした。

それだけでなく勤務中に「下でsoda買ってくるけど、いる?」みたいに尋ねられ、ペットボトルのコーラを奢ってもらったこともあった。ちょっと違和感を感じて「お金払うよ」というと「こんなの全然いいよ」と奢ってくれたのだ。「高いものではないとはいえ、いきなりコーラ奢ってくれることあるんだ…アメリカゆえなのか?」と不思議だった。またコロナにかかり休んでいる時は「スープでも作って持っていこうか?」とWhatsappでメッセージをくれた。「いや、流石にそれは大丈夫だよ!」と断ったが、日本人感覚からすると、距離感が近く、戸惑うことが多かった。

淡々と出来事だけを書いてきたが、もちろん、私はとっくに恋に落ちていた。

続く

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